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本の重みを感じながら

 昨日の校長の小部屋では、読書の秋を楽しみますと書きました。本日の新聞でデジタル教科書を正式な教科書として位置付け、次期学習指導要領が小学校で全面実施される予定の2030年度から導入を想定しているとのことです。私見は述べませんが、情報化の波が加速度的に押し寄せてきていることを改めて実感します。

 校内を回ることが多いのですが、たまに図書室を覗いています。朝一番、夕方遅くに入室すると当然誰もいない静かな図書室なのですが、思うことは、本に囲まれた空間で過ごす素晴らしさをどうしたら生徒たちに伝えられるだろうか、ということです。本離れが進み、手軽な端末の中で物事が完結していくような世の中にあって、一冊の本を手にさせることや読書の良さ、図書室の活用を勧めることの難しさを感じます。

 17歳、高校生のときに村上春樹著「ノルウェイの森」を読んだ衝撃は今でも忘れません。読後に押し寄せてきた一種独特な脱力感と無力感は、それまで感じたことのない不思議な感覚で、しばらくの間何も手につかなかったことを覚えています。

 人を好きになること、生きていくことの意味、これから自分が行くであろう大学とは何なのか、自分とは、大人になるとは、親友とは・・・当時私が抱えていた複雑な思いのすべてが、この上下2巻に集約されていました。自分は何者でどこに向かっていくのか、誰も教えてくれない、結局は自分で見つけなければならないんだ、と教えてくれた作品で、高校2年生から現在に至るまで、何度も繰り返し読んでいる愛読書です。年齢とともに当然受け止め方は変化していきますが、読むたびあの時の17歳の自分に戻れる本でもあります。

 大学時代に出会った妻もたまたま著者のファンだったこともあり、以後三十数年かけてふたりで書店をや古本屋を回って作品のすべてを購入し読んできました。先日自宅に帰ったとき、居間にずいぶん昔の著者の本が置かれていたので、妻も時折読み返しているみたいです。妻とは好きな作品は異なりますが、私は先に書いた「ノルウェイの森」ともう一冊大切にしている作品があり、それは大学時代に読んだ「国境の南、太陽の西」です。個人的に一番好きな作品です。気になる方は是非読んでみてください。

 さて、本校の図書室にも村上春樹さんの本が置かれています。上記の作品は残念ながら棚には入っていませんが、最近の作品がいくつか並んでいて、中には映画(ドライブ・マイ・カー)で取り上げられた短編が納められた一冊もあります。生徒の皆さん、是非手にしてください。

 デジタルもいいけれど、本の重みを感じながら、一枚また一枚とページをめくり、見たこと感じたことのない世界に触れられる読書を楽しんで欲しいと思っています。たかが一冊、されど一冊です。一冊の中に自分の知らない世界が広がっています。