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モチモチの木

 朝のテレビニュースでは、北見赴任時の2年間(4月から10月)何度も自動車を走らせた石北峠が映し出され、真っ白な世界を大型トラックが雪煙を上げながら上川方面に向かって走行していました。山間部や峠に降るものはもう雨から雪に変わり、それはこれから少しずつ平野に降りてきます。

 黄褐色に衣替えしたトチノキが眼前にあります。九月はたくさんのトチの実を付け、やがてそれらは落下し一面トチの実だらけになります。今年初めてトチノキを知り、初めてトチの実を手にしました。

 ただ、45年前に担任だった本多先生が、斎藤隆介作、滝平二郎絵の『モチモチの木』という絵本を私たちに読んでくれて、その時にモチモチの木がトチノキで、トチの実を粉にして餅にまぶしてふかして食べる、という話を私は忘れずに覚えています。溢れるように本多先生のことが想い出されますが、斎藤隆介作、滝平二郎絵の作品は他にも有名なものがあり、『八郎』『花さき山』『ベロ出しチョンマ』『三コ』『半日村』・・・どれも心に沁みる話です。本田先生がそれらを読んでくれるのをみんな楽しみにしていました。

 小学生の、しかも低学年の出来事はそう多く記憶できないのではないかと思いますが、そうした中にあって本多先生と絵本の記憶がここまで鮮明に残っているのは、先生の魅力が普通のものではなかったことと、一種独特な版画と子どもの心を的確に捉える語り口にあるのではないか - そう考えたりしています。私の学年だけ16名しかいない小さなクラスでしたが、おそらく全員が本多先生と絵本のことを覚えているのではないかと思います。

 多くの人と出会い、多くの人と別れ・・・そのような人生を送ってきました。残念ながら忘れてしまった人もたくさんいます。何でもかんでも覚えていたら頭がパンクしてしまいますから、私は忘れてしまっていいと思っています。忘れて、新しいことが記憶されて、それでいいと。ただ、本多先生と絵本のことは最後まで忘れないだろうと思います。一人の人間にそれだけの記憶を植え付けてしまう人間力とは何なのだろう。私は一人の教育者としてそこまでの教育や関わり合いができたのだろうか・・・

 私は節目節目で良き出逢いに巡り会う徳を持った人間だと感じることがあります。その一人が小学校の担任の本多先生、中学校の佐藤先生、高校の廣瀬先生、大学の城谷先生、大学で出逢った親友K、そして妻、40歳でのマラソン仲間。困ったときに助けてくれた大切な方々です。

 モチモチの木が深いところまで考えさせてくれる一日です。

 本校の図書館に蔵書されているといいのですが。